全国のコミュニティカフェとオンラインでつなぎ、事例を学んでいく「コミュニティカフェをめぐる旅」。
6回目となる今回は、一気に西へ。
広島県福山市の「コミュニティハウスUmbrella」にお邪魔します。
外観の様子が、とてもおしゃれですよね。
一体、どのような活動をされているのでしょうか。
NPO法人わくわく街家研究所の副理事長である桒田慶子さんに、お話を伺っていきましょう。
■商店街の空き店舗古民家カフェ
「さまざまな問題がある昨今ですが、今日はホッとしていただける時間にできればと思っています」。
優しさが垣間見えるお言葉から、桒田さんの自己紹介とアンブレラの説明が始まりました。
桒田さんは、山口県出身。
こどもの成長に合わせて、アルバイトやパートなど、働き方を柔軟に変えてきたそうです。
こどもが中学生になったのを機に、フルタイムのお仕事を始めた桒田さん。
アパレル企業で、さまざまな経験をされたのだとか。
その時の経験が、現在の仕事にもつながっていると話されていました。
洋服屋さんには、おしゃべりをしにやってくるお客さまも多かったそうです。
洋服が欲しいという目的だけでなく、それぞれの精神的な拠り所や居場所が必要ということではないだろうかと考えた桒田さん。
アパレルを退職し、自宅でオープンハウス「FUWARI」を立ち上げます。
「誰かの居場所になれば」と思って始めたものの、気づくと家族の居場所がなくなっていました。
桒田さんは活動場所を探していた折に、福山本通商店街と出会います。
出会った商店街のおじさんたちに、「ぜっぴ(絶対に)いい街にしようや」と言われた桒田さん。
これが、桒田さんにとってまちづくりに関わった最初の経験でした。
その後、リサイクルショップ「街なか情報室ぜっぴ(以下:ぜっぴ)」の運営に携わるようになります。
桒田さんはぜっぴの活動をしていく中で、「若い人向けのコミュニティも作りたい」と考えるようになりました。
そこで、商店街の北側に「コミュニティハウスUmbrella」を作ることになるのです。
アンブレラは、福山駅から歩いて7分ほどのところにあります。
アンブレラのある福山本通商店街は、福山城の築城以来約400年の歴史があるそうです。
この福山本通商店街は、かつてはシャッター商店街でした。
現在のリニューアルされた写真と見比べると、その変化に驚かされます。
現在の商店街は人通りも増え、活気があるとのこと。
商店街のパンフレットには、広島県立美術館から「置かせてほしい」と連絡が来るほど洗練された、美しいマップが入っています。
桒田さんのお話は、NPO法人わくわく街家研究所やアンブレラの具体的な説明に移っていきました。
■NPO法人運営のコミュニティハウス
アンブレラは、NPO法人わくわく街家研究所が運営するコミュニティハウスです。
わくわく街家研究所はアンブレラだけでなく、ぜっぴの運営やまちづくり事業もおこなっています。
ぜっぴはリサイクル事業であり、ハンドメイド商品を販売するレンタルボックスも兼ね備えているのだとか。
レンタルボックスには、約160名のボランティアが出店されているそうです。
ぜっぴの取り組みが評価され、「第1回福山ブランド」の登録活動部門を受賞しました。
アンブレラは従業員数5名で運営し、イベント事業部にも1名配置しています。
まちづくり事業では空き店舗対策や、不動産事業をおこなっているとのことでした。
NPO法人の説明が終わると、アンブレラの説明が具体的になっていきます。
アンブレラの1階はカフェになっていて、一枚板の大きなテーブルが特徴的です。
2階は裏庭になっており、コミュニティスペースとしても活用しています。
資金面では、長く続けていくために「運営のためのお金の5つの仕組み」を掲げ、カフェやレンタルスペースといった事業ごとに少しでも黒字を目指すこと、余剰金はまちづくりに活用することを意識しているそうです。
アンブレラは、元は15年くらい空き店舗のままでした。
でも、桒田さんは空き店舗の中を見て、とてもわくわくしたのだそうです。
空き店舗の契約を即決したものの、様々な問題にも直面します。
それでも交渉の末、なんとか貸してもらえることになりました。
理事長が元々商店街で働いていた人だったこともあり、人望にも助けられたそうです。
仲間集めを始めた桒田さんたち。
初めての集まりの様子を見せてくれました。
学生や社会人、行政担当者が集まっています。
やりたいことを先に決めて、仲間を募っていくスタイルで進めました。
ワークショップで約1年間話し合いを重ね、面白いアイデアが続々と飛び出したそうです。
写真を見てみると、若者が多いのがわかりますね。
ただ…アイデアはたくさん出てきても、運営と照らし合わせると難しいケースも多いのが事実。
温泉をやりたいけど、消防法に引っかかる…といった現実的な問題が立ちはだかります。
ワークショップで煮詰まり、一度中断を挟んだ時期もありました。
コミュニティを作ることが目的であり、誰でも気軽に立ち寄れる居場所を作りたいというのが桒田さんたちの願い。
運営のためには、定期的な収入が望める設備が必要です。
そこで、桒田さんたちはカフェを設置することに。
起業の後押しをするレンタルルームや、情報を得るためのコミュニティスペースも併設することにしたのです。
リノベーションには200人近い人が駆けつけ、手伝ってくれました。
中には、遠く岡山の早島から駆けつけてくれたおっちゃんの姿も。
リノベーションを手伝ってくれたこどもたちがお兄さんお姉さんになって訪ねてくれることもあり、成長を感じられているそうですよ。
リノベーションがある程度進み、まだオープンはしていないけれどイベントをやってみよう、と考えました。
そこで、支援してもらっていたパン屋さんやフレンチのシェフにお話をしてもらい、盛況のうちに終了します。
しかし、ここで再び問題が。
まず、スケジューリングが機能しなくなりました。
気軽に入りやすくなったのは良かったものの、若者のたまり場のような状態になり、工期に遅れが出始めたのです。
さらに、仲間割れが頻発。
ミーティングを何度か開催して問題解決にあたりましたが、コミュニケーションの取り方が良くなかったと反省しました。
こうした紆余曲折を経て、お店の名前を決めることになります。
「たのしいときも、そうでないときも、おおきな傘の下にみんなあつまっておいで」という願いを込めて、アンブレラと名付けました。
でも…実は、アンブレラという名前にはもう一つ意味があります。
アンブレラを開くことになった空き店舗は、元は傘屋さんだったのです。
かつての傘屋さんから、コミュニティハウスへと大変身したアンブレラ。
今までの財産を大切にしつつ、未来へ前向きに進んでいけるようなお店の名前だなと感じました。
そして、アンブレラは2016年4月にオープンしたのでした。
オープンから約6年が経ち、その間にもさまざまな出来事があったようです。
アンブレラの認知度が上がってきて、まちや商店街の情報が自然と入ってくるようになりました。
商店街と地域をつなげる役割や、起業の支援もおこなっています。
しかし、続けていく上で問題となったこともありました。
まずは、なかなか気づくのが難しい建物の老朽化です。
リノベーションしているため、内装は綺麗な場合が多いものの、徐々に状況が深刻に。
余剰金で賄い、なんとか補修しました。
加えて、カフェ事業が多忙になり、人件費もかさみつつあります。
スタッフの入れ替わりが増え、アンブレラへの思いが強い人が減ってきているのも気になっているそうです。
そして、桒田さんはこれからのアンブレラの展望を語ってくださいました。
コミュニティビジネスやまちづくりの組織として続けていきたいし、商店街から受けていた仕事は、仲間づくりをして商店街でやってもらおうと考えています。
人財育成、経営の見直し、サードプレイスを意識したカフェ運営、社会の課題を意識した活動を目標に掲げているそうです。
アンブレラを始めてからの6年間で、桒田さんが気づいたことがあります。
一つは、支援力だけでなく、受援力も重要だということ。
「助けて」と言える力は、重要だと考えています。
二つ目は、コミュニケーションのあり方。
誰かの居場所になるためには、きちんとお互いを理解しようとすることが大事なのかもしれませんね。
最後に、桒田さんがアンブレラで大切にしていることを一言でまとめてくださいました。
だれでもいつでも、気軽に立ち寄れる。そしてつながる、つなぐ。
新型コロナウイルスが広がっている状況だからこそ、人と人とのつながりの大切さを感じやすいですよね。
改めて、人とのつながりは大切なものだと感じた時間でした。
■アンブレラからイベントを
アンブレラがどのような道を歩んできたか、学ぶことができましたね。
ここからは、アンブレラが具体的にどのようなイベントをおこなっているのかを学んでいきましょう。
お話をしてくださったのは、アンブレラのイベント事業部マネージャーである岡本光代さんです。
アンブレラの2階部分を活用し、イベントの企画をおこなっています。
本業ではリノベーションの内装工事業や、輸入壁紙を扱うインテリアショップを運営されている岡村さん。
2016年11月から、アンブレラの2階に入居します。
現在もアンブレラの2階で活動し、商品のショールーム兼商談スペースとして活用しているそうです。
岡村さんが2階を使用しないときは、レンタルスペースとして利用することもできるのだとか。
アンブレラに入居してからは、商店街やアンブレラが主催するイベントに出店者やスタッフとして参加しました。
近年は、すべてスタッフとして関わっています。
岡本さんが使用している2階の写真を見ると、植物を中心とした落ち着いた佇まいが目を引きます。
和室部分を全て借り、ショールームや商談スペースとして活用中です。
イベントについて、詳しく教えてもらいましょう。
まずは、商店街が主催する「福山まるしぇのマルシェ」。
岡本さんは出店者の募集や配置図の考案といった、スタッフ業務を担当しています。
このうちアンブレラのある本町地区と笠岡地区で行う「ロハスのマルシェ」では、自然に配慮した体に優しいハンドメイド雑貨などを販売しているのだとか。
このほかにも、花や植物を楽しむ「グリーンなマルシェ」やレトロ雑貨や古本を販売する「アンティークと古本マルシェ」があり、それぞれ地区ごとに行っているそうです。
3つの商店街が合同で行っているという福山まるしぇのマルシェ、それぞれ特色があって興味深いですね。
岡本さんは、似たような雑貨を販売する出店者さんが競争にならないよう、配置を考えています。
また、ご自身も楽しむことを忘れないようにしているとおっしゃっていたのが印象的でした。
2つ目は、「パンのマルシェ」。
福山ブランドに輝いたパンを販売するイベントで、さまざまなパン屋さんの焼きたてパンが並びます。
オープンして30分ほどで完売するお店もあるそうで、パン屋さんの人気とイベントの認知度の高さが伺えますね。
3つ目は、「ふくやまワインまつり」。
福山では、毎年5月に「福山ばら祭」が開催されます。
商店街が協賛事業として始めたのが、ワインまつりです。
商店街の飲食店が備後ワインをはじめとした国内外のワインを揃え、チケット制で飲食ができるイベントとなっています。
音楽ライブなども開催され、毎年大盛況のようです。
このほかにも、アップサイクルをコンセプトとしたマーケットの開催や土曜日の夜店といった、多数のイベントに携わっている岡本さん。
老若男女が楽しめるイベントが多いですね。
最後に、岡本さんにとってアンブレラがどのような場所なのかを教えてくださいました。
アンブレラは岡本さんにとって、とっておきの居場所。
多くの人との出会いや情報交換、商店街のつながり、楽しめる場所…
岡本さんが感じていることをアンブレラにやってきた人と共感したいし、持って帰ってもらいたいと考えているそうです。
岡本さんへの、アンブレラへの愛が伝わるプレゼンテーションでした。
■説明を終えて-旅のナビゲーターとのトークセッション
お二人からの説明が終わり、トークセッションが始まりました。
斉藤保(以下、斉藤)
岡本さんが担当されているイベントって、かなり大規模ですよね。街ぐるみでやっているような印象を受けました。マルシェや夜店は、アンブレラができる前から地域で実施されていたのでしょうか。
桒田慶子さん(以下、桒田さん)
夜店や夏祭り以外は、アンブレラから提案したイベントです。
斉藤
運営団体はNPO法人ということですが、NPOと商店街の関係性を知りたいと思います。商店街から業務委託を受けるといった契約があるのか、協力のような緩やかな関係なのか…その辺は、いかがでしょうか。
桒田さん
アメーバ的なつながりと言えばいいんでしょうか。ちょっとだけ関わっているつもりでいたら、つながりがじわじわ広がっていったような感覚です。商店街のハード面改修では、NPOが事務手続きなどで大きな役割を担いましたね。
斉藤
コンサルティングのような。
桒田さん
理事長が、まさにそんな感じでやっていますね。契約関係は一切ありません。イベントをやりたいわけではありませんでしたが、「こういうことをしたら楽しそう」というアイデアが結局イベントに繋がって。イベントをやるときはアンブレラが主催するのではなく、商店街が主催することにしています。商店街主催のイベントがすごいと広まれば、アンブレラだけでなく商店街にもメリットがありますからね。まさにWin-Winです。
斉藤
立ち上げ時には老若男女が加わっていましたよね。商店街に関わりがある人が多かったのでしょうか。
桒田さん
あの時は大学生がほとんどでしたが、もともと大学が商店街と提携していたのです。本通商店街で、大学生の基地も作っていました。そのつながりから、大学生がたくさん来てくれていたというわけです。
斉藤
立ち上げ時にさまざまな困難があったということでしたが、そういった時のまとめ役というか、コーディネーターのような役割はいたのでしょうか。
桒田さん
市外のコミュニティデザイナーの方に、ボランティアで入っていただいていました。ワークショップは、コミュニティデザイナーさんなしではできなかっただろうと思います。
斉藤
差し支えない範囲で、現在の収支状況を教えていただけますか。
桒田さん
アンブレラは、新型コロナウイルスの影響で経営的に非常に厳しい状態が続いています。コロナになって半年間は、かなり大変でした。一方「ぜっぴ」は堅調で、コロナの影響はほとんどありません。
斉藤
岡本さんに伺います。アンブレラのイベント運営スタッフになったきっかけを教えていただけますか。
岡本光代さん(以下、岡本さん)
元々は桒田さんが企画していて、私はそのお手伝いをしていました。手伝うことになったきっかけは、そもそもルームをお借りするときに「イベント時にお手伝いをしてくれる方」を条件に募集されていたことです。イベントのお手伝いは嫌いではないし、自分自身が楽しんでわくわくすることをやるのが好きなので、積極的にやりたいと手伝わせていただいていました。それ以来、イベントがあるごとに携わらせていただいています。
斉藤
もともとイベント会社にお勤めだったとか、まちづくりイベントに関わった経験はおありでしたか。
岡本さん
いいえ、全くの未経験でした。福山で生まれ育ちましたが、21年ほど食品会社の事務員をしていて。たまたま内装屋さんの同級生と仕事をするようになって、事業をする場所を探していたときに、アンブレラのリーフレットのようなものを見ました。それで、見学に行ったという感じです。実は見学した後、同級生のことも考えて「やっぱりやめます」と一度断ったのですが、私はどうしてもここが良くて。結局、借りることになりました。運命だったのかもしれませんね。今は、本当に楽しく仕事させていただいています。
桒田さん
ちょっと補足しますと、岡本さんに本格的に関わってもらおうと思ったのは後継者育成の意味合いもありました。私自身が高齢になりつつあり、事業を引き継いでくれる人を確保したかったのです。岡本さんをイベント事業部のトップにして、将来的に引き継いでもらえればと思っています。
斉藤
岡本さんとしては、巻き込まれた感じなのでしょうか。
岡本さん
どちらかと言うと、私の方から飛び込んでいますよね(笑)仕事しながらなので、ミスをすることもありますが、みなさんしっかりカバーしてくださって。助かっています。
斉藤
イベントの企画って、商店街や行政との調整といった手間もかかりますよね。岡本さんが動く際のコスト関係はボランティアでということですか。
岡本さん
そうです。アンブレラの仕事が、本業につながることもありますね。イベントで知り合った方が遊びに来てくださったり、その延長線上でさらにつながりができたりということもあります。アルバイト代くらいは出ますけどね(笑)
桒田さんの優しさと企画力、そして岡本さんの実行力が、素敵な化学反応を起こしているように感じました。
アンブレラについて話しているお二人の姿はとても楽しそうで、幸せそうに見えます。
行ってみたいなと思わせてくれる、素敵な時間でした。
■旅を終えて
質問や交流会も盛り上がり、大盛況で終わった6回目の「コミュニティカフェをめぐる旅」。
この旅も、いよいよ残すところあと一つとなりました。
今までの気づきや思いを噛み締めて、最後の旅でまた新しい気づきがあれば良いな、と思います。
最後まで、旅を楽しみましょう!