全国のコミュニティカフェを学ぼうと始まった、コミュニティカフェをめぐる旅。
これまでの旅では、東北地方のコミュニティカフェをめぐってきました。
3回目の今回は、一気に東京へ。
東京都大田区のコミュニティカフェ「アキナイ山王亭(みま〜もステーション)」にお邪魔しました。
発起人である、牧田総合病院地域ささえあいセンター長の澤登久雄(さわのぼり ひさお)さんにお話を伺います。
病院が設立に携わったコミュニティカフェ、いったいどんな場所なのでしょうか。
ゆっくり、お話を伺っていきましょう。
■東京の強みを活かした「協賛」のカフェづくり
澤登さんは、ゆっくりと聞き取りやすい穏やかな声で語りはじめました。
澤登さんが勤めている牧田総合病院は、急性期病院です。
急性期病院にお勤めの澤登さんだからこその視点を交えながら、お話は進みました。
澤登さんがまず私たちに見せてくださったのは、「つながり 気づく まちづくり」というスライド。
2008年から始まった、「おおた高齢者見守りネットワーク」(以下:みま~も)についての説明もありました。
みま~もは、医療・保健・福祉分野の専門職と民間企業、行政が手を組み、地域に暮らすすべての人たちの安心と健康を支えるために活動しています。
民間企業や地域住民による「見守りささえあい(気づき)のネットワーク」と医療・保健・福祉の専門職による「支援のネットワーク」の連携により、すべての人が安心して暮らせるまちづくりを目指しているのだとか。
澤登さんは、現在は地域ささえあいセンター長(病院の在宅部門を統括する部署)です。
しかし、地域ささえあいセンターができたのはたった4年前。
それまで、澤登さんが何をされていたかというと…なんと、病院が大田区から委託を受け運営している地域包括支援センターのセンター長を13年も勤めていたそうです。
地域包括支援センター長の経験を活かし、みま~もでも中心的な役割を果たしている澤登さん。
発足にあたって考えたことの一つが、東京という地域の強みと弱みでした。
まず浮かんできたのは、東京の弱み。
高齢化が進み、認知症や要介護者が増加していること。
地域コミュニティが希薄化し、地域の共助能力が低下していること。
独居世帯や核家族が増加し、自助能力が低下していること。
弱みを見つけるのは簡単なもので、いくらでも出てきます。
それでは、東京の強みとは何でしょうか?
・人口が多いため、人的資源が豊富であること。
・地域を支えられる人材が多いこと。
・日常を支える社会インフラ(コンビニ、スーパーなど)が充実していること。
澤登さんたちが注目したのは、この3つでした。
東京の強みを活かして、なおかつ持続可能な仕組みを作りたい。
試行錯誤の末に澤登さんたちがたどり着いたのは、「協賛」の仕組みでした。
協賛企業・事業所にお金を出してもらい、しかも人を出して汗もかいてもらう。
企業・事業所からすると、一見、損でしかない仕組みですよね。
それでも、現在みま〜もに協賛している企業や団体はのべ68もいます。
2008年からの13年間で、順調に増加しているとのことでした。
内訳を見ると、病院4、薬局8、施設6、事業所14、企業が36。
圧倒的に、企業が多いですね。
協賛する企業にメリットがなければ、ここまで増えないはず。
いったい、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
澤登さんたちは、企業がみま〜もに協賛するメリットは大きく分けて二つあると分析しています。
一つは、少子高齢化によって働き手が減少していること。
そしてもう一つは、異業種とのネットワークができることです。
少子高齢化社会は、日々深刻になっている問題の一つ。
企業もこれまでの戦略から、超高齢社会に向けての方針転換が必要な時代になっているのです。
方針転換をするということは、今まで全く関わりのなかった企業や個人とのつながりを模索しなければならないということ。
そうしたニーズに、みま〜もが見事に応えてみせた、ということなのでしょう。
協賛企業が年間に支払う金額は、4万円。
一口2万円で、それを二口以上支払ってもらう仕組みです。
企業だけではなく、みま〜もの活動に参加する個人の応援団「みま〜もサポーター」も存在します。
その人数、なんと60人。
年会費2,000円を支払う必要がありますが、それを上回る特典を用意しているのだとか。
たとえば体力測定の割引やミニ講座・イベントの開催、サポーター同士の親睦会、1年間の活動をまとめたDVDの配布…医療が関わる組織だからこその特典と、仲間ができるという大きなポイントがうまく作用しているのかもしれませんね。
お金がないから年会費をもらうのではなく、まずは地域住民の能動的な姿勢を大切にしたくてこの仕組みをとっているとのことでした。
加えて、イベントに参加して特定の条件を満たすと、500円分の商店街で使える商品券が手に入ります。
月で2,000円分が上限ですが、もしかしたらこれをモチベーションに頑張っている方もいらっしゃるのかもしれません。
今回ご紹介しているみま〜もは、あくまでも東京都大田区の澤登さんたちが始めた取り組みです。
しかし、みま〜もの活動に共感した全国の方々から、同じ仕組みで地域を良くしたいという声が多く寄せられました。
そこで澤登さんたちが始めたのは、「のれん分け」の仕組み。
現在、全国10ヶ所にみま〜ものシステムを使ったコミュニティカフェが存在しているのだそうです。
この仕組みづくりにも、澤登さんたちが苦心した部分があったといいます。
最初は、全国一律で大田区のみま〜もと同じ事業を展開している場所にしようと考えていました。
でも、それを途中で止めることにしたそうです。
なぜなら、それぞれの地域ごとに地域課題が違うから。
協賛の仕組みや共同参画のまちづくりという仕組みさえ踏襲していれば、みま〜もの名前やキャラクターの使用権、13年間のノウハウなどを提供しているそうです。
とても柔軟で高い意識をもっている組織だと感じました。
■みま〜もにとっての「居場所」とは
協賛やみま〜もサポーターの説明を終えた後、澤登さんはみま〜もの考え方を話し始めました。
そもそも、みま〜もが考える「居場所」とは何なのでしょうか?
それは、「人・組織がつながるプラットフォーム」。
澤登さんは目的が違っても、思いを持った人の気持ちを循環させることが大切と語ります。
そして、もう一つの問い。
なぜ、居場所を作る必要があるのでしょうか。
地域には専門職やサービスを必要としていても、自分でSOSを出せない人が多いのです。
そのような人々にサービスを浸透させていくためにはただ窓口を開いて待っていてはダメで、自分たちから地域に出ていかなくてはなりません。
そこで、みま〜もでは地域で暮らす人、働く人を面で支える仕組みづくりをしています。
みま〜もの活動は活動自体が目的なのではなく、地域と繋がるためのツールなのです。
たとえば地域づくりセミナーでは参加者自身や地域の課題への気づき、見守りキーホルダーは安心感と町工場の技術を得るもの、そしてみま〜もステーションは商店街と地域をつなぐ重要な拠点になっています。
澤登さんは、みま〜もステーション(アキナイ山王亭)について詳しく説明を始めてくれました。
■アキナイ山王亭
みま〜もステーション「アキナイ山王亭」は、商店街のコミュニティスペースです。
活動拠点として選んだのは、JR大森駅から徒歩7分ほどのところにある大森柳本通り商店街。
設置の際に商店街は、大田区が進めている商店街の空き店舗対策事業「商店街コミュニティ活性化事業」を活用しました。
この補助金を活用し、閉店した履物屋さんを改修。開設にこぎつけました。
活動場所を選ぶときにも、澤登さんたちは徹底して地域ファーストです。
全国の商店街が抱える課題の一つに、商店主の高齢化があります。
店主が高齢化していくと、地域や商店街として何か新しいことを始めたくても、行動を起こす力がありません。
一方、みま〜もは地域づくりの活動拠点が欲しいと思っています。
双方の課題とニーズが見事に一致し、Win-Winの関係性で事業を行うことができているのです。
2017年度、みま〜もステーションでは430の講座を開き、のべ4,950名が参加しました。
その数字だけでも素晴らしいのですが、思わぬ収穫があったといいます。
みま〜もステーションの隣にあるお蕎麦屋さんの売上が、みま〜も効果でなんと50%もアップしたのです。
さらに、大森柳本通り商店街の空き店舗ゼロも実現しました。
この出来事で、澤登さんたちはあることに気づいたといいます。
みま〜もステーションは、高齢者の方たちの見守りをするために開設しました。
でも、「高齢者を見守るためには、高齢者のためだけに活動していても地域は変わらない」ということに気づいたのです。
その気づきを、実証した事例があります。
商店街の裏にあった区立公園。
通りから一本入った裏路地にあった公園だったため、「怖いし、近づくと危ない」と誰も寄りつかないような公園になっていました。
そこで、みま〜もの活動で公園のリノベーションをスタート。
高齢者が公園をきれいにして、完成した時点でも達成感や喜びはあったでしょう。
しかし、それだけでは終わりませんでした。
「高齢者がいれば子どもを安心して連れて行ける」と、子ども連れの公園利用者が増加したのです。
さらに、それまで行政に寄せられていた公園への苦情が減り、行政の担当者は大喜び。
結果として、行政がこの公園を優先して全面整備してくれることになりました。
その際、「公園の改修で要望があればおっしゃってください」と言われたみま〜もステーション。
要望を、2つ出しました。
一つは、リハビリができる遊具を設置して欲しいという要望。
もう一つは、畑が欲しいという要望です。
その要望通りに整備された公園は、今や多世代交流拠点の一つになっています。
かつて誰も寄りつかなかった公園が、多世代交流拠点に変化する…素晴らしいことですよね。
最後に、澤登さんはみま〜もの活動に参加しているヨーデル歌手の方が作られたという「みま〜もの歌」を聴かせてくださいました。
独特なのにキャッチーで覚えやすいメロディに乗せて、みま〜もの場所や活動した場所の紹介をしてくれるムービー。
みま〜もが地域のために何ができるかを模索し、共感した人たちの思いが詰まった素敵なムービーでした。
■旅のナビゲーターとのトークセッション
みま〜もステーションの説明が終わりました。
ここからは、旅のナビゲーターである株式会社イータウンの斉藤保とのトークセッションに入ります。
斉藤保(以下、斉藤)
厚労省のモデルケースになるくらいの先進的な内容、ありがとうございました。
澤登さんがみま〜もの活動を始められたのは、地域包括ケアなんて概念はない時代でしたよね。地域への問題意識は持たれていたと思いますが、実際に課題を見つけたときにヒントとなったものはあったのでしょうか。最初からこうしたビジョンを持って、みま〜もを運営していくおつもりでしたか?
澤登久雄さん(以下、澤登さん)
走りながら作り上げました。最初は毎月セミナーをするところから始めました。高齢者の見守りという目的を達成するために、また持続可能な仕組みを作るためにどうするべきか模索していった結果、現在の協賛の仕組みに辿り着いたんですよね。
斉藤
なるほど。先ほどご紹介いただいた協賛事業所の中には福祉サービス事業所もありましたが、協賛への抵抗はなかったのでしょうか。
澤登さん
実は、大ありで(笑)
私は地域包括支援センター長という肩書きもあり、ある意味公的相談窓口の責任者でもあるわけです。公的相談窓口の責任者が、企業や事業所に向かって堂々と「お金出してください」とは言えません。行政の方にも相談して、行き着いた結論は「私は前に出ないほうが良い」ということです。あくまでも企業が作って、私がそれに携わっているという形にしました。
斉藤
立ち上げ当初は企業やサポーターへの説明に苦心されたのではないかと想像します。プレゼンのコツや継続してもらうためのポイントはありますか。
澤登さん
当初は、1社1社訪問してみま〜もの説明をしていました。もしそのときお会いした担当者がやりたいと言ってくれても、トップが必要性を感じなければ、企業は動いてくれません。その思いから、なるべく企業のトップと話をするようにしました。協賛の継続が増えてきた3年目以降は、営業活動はしていません。HP経由をはじめ、さまざまなきっかけで企業から直接オファーが届くようになったんです。特に、コロナ禍になってから協賛の相談が増えていますね。
ただ「協賛していただいてありがとうございました」と終わりにするのではなく、あえて人を出して汗をかいてもらっています。活動に直接関わってもらわないと、十中八九協賛を辞められてしまいますから。実際に活動に参加してもらって共に汗をかくことでみま〜もの活動への理解が深まり、結果として継続が得られると考えています。
斉藤
そういったお話を伺っていくと、アキナイ山王亭の存在がますます重要になってきますよね。もし、アキナイ山王亭がなかったらどうされていましたか。
澤登さん
おそらく、今ほどみま〜もが地域に根ざすことができていなかったのではないかと思いますね。商店街にああいった場所(アキナイ山王亭)があることで、買い物ついでに寄ってくれる人が多いのも事実です。商店街に活動拠点があるということは、地域に活動を知っていただく大きなきっかけになっていると考えています。
斉藤
なるほど。その場所を選ぶ際のことも伺いたいと思います。たとえば、公民館のような公共施設を使う選択肢もあったはずですよね。
澤登さん
公民館でやるのと商店街で活動するのとでは、効果が全く違いますね。僕たちは窓口で待つのではなく、自分たちの方から地域に出ようと思っていました。そのスタンスだったので、公民館などを使う選択肢は最初からなかったですね。最初は、デパートの80人くらいはいるようなスペースを貸してもらったこともありました。今思うと、地域に根ざした場所で何かしたいという思いが当初からあったのだろうと思います。もちろん公的施設でやることもできたでしょうが、会場費などコストがかかるんですよね。駆け出しの頃は特に、そういうコストはなるべくかけたくじゃないですか。もともとあったつながりを生かして、無料で使わせてもらえれば喜んでやって…でも、結果としてそのように活動してきたことが良かったんでしょうね。
斉藤
コストの話も出たところで、皆さんやっぱり気になるのはコストを含めたお金の話だと思います。協賛金やみま〜もサポーターの年会費が収入の一部だと思うのですが、固定費などはどのように回しているのでしょうか。
澤登さん
アキナイ山王亭は、閉店された履物店の店主がオーナーさんです。商店街はオーナーさんに月何十万も支払っていますが、みま〜もが商店街に支払っているのは月4万円。これでも最近値上げされたんですけどね(笑)みま〜もの活動にメリットを見出していただいているから、こうなっているのかなと感じます。それと、人件費はかかっていません。講座関係は企業が社会貢献活動の一環として行ってくれていますし、活動の準備などは事務局として包括支援センターの職員が手続をしてくれています。包括支援センターとしても地域に対してやることがたくさんあるので、メリットが多いのです。
斉藤
行政との関係性は当然大事になると思います。みま〜もの活動自体は福祉関係の部署、商店街関係は商業系の部署に跨ぐのかなと想像しました。行政の縦割りを破った秘訣などがあれば教えてください。
澤登さん
アキナイ山王亭は商店街関係、みま〜もの活動は高齢関係、公園整備は環境関係…活動が多岐に渡るので、縦割りの問題は発生します。一つの事業を通して、行政も横になるんです。私たちが活動したときは、活動に協力的な行政マンの方がたまたまいらっしゃって。その方がさまざまな課と顔繋ぎをしてくれました。それがなかったら、みま〜もはここまで活動を広げられなかったかもしれません。行政は異動もありますから、理解がある方がいらっしゃる間はチャンスです。理解者がいらっしゃる間に、活動を押し進めてしまうのもポイントかもしれませんね(笑)
ここで、澤登さんは老人ホームの代表でみま〜もの代表もされている片山敬一さんをトークセッションに巻き込みました。
片山敬一さん(以下、片山さん)
皆さんこんにちは、片山です。普段は、大田区で老人ホームを経営しています。先ほどの斉藤さんと澤登さんのトークの中で、協賛のお話がありました。客観的に見ると不思議な形に思われるかもしれません。でも、しっかり役割を与えられるというのが重要な気がして。私どもがみま〜もに参加したのはみま〜もが始まって2年目でしたけど、「老人ホームなら居場所があるよね」「親会社が食品系だから食事のプロだよね」「なら月一回、レストランをやってみよう」と、どんどん話が進みます。で、それがうまくいくと「今度は施設を飛び出して、商店街に行ってみない?」というように、次から次へと課題が降ってくるんですよ。非常に重い課題だったり、困難を伴ったりするのですが…それがやりがいにつながっています。澤登さんは、振るのが上手いのかなと思います。で、活動の順番としてはアキナイ山王亭よりも公園の方が先ですね。セミナーで仲良くなった一般住民の方々が、「地域のために何かしたい。公園を整備しよう」と活動を始めて、それをみた商店街の方々が心を動かされたようで。空き店舗を改修しましょうということになったんです。それを知った行政が動く、というような循環だったのかなと思います。
斉藤
片山さんは元々福祉業界にいらっしゃったわけですね。最初に澤登さんからお話が来たとき、抵抗などはありませんでしたか?
片山さん
澤登さんとは、もともと面識がありました。で、入居者の方と外出しようと散歩していたら、たまたま1年目のセミナーをやっていて。今でも覚えているのですが、そこで「ちょっと来て」と手招きされたんです(笑)「こういう活動やっているけど、一緒にやらない?」と。元から澤登さんと知り合いだったのもあり、そんなに抵抗はなかったですね。老人ホームって閉ざされた場所なので、なんとかしたいなという思いもありましたから。入居者の方にも外に出てほしいし、職員にも職場以外のコミュニティを作って、いろんな企業の方と出会ってほしい。そんな私の思いと澤登さんのビジョンが、Win-Winの関係だったのかもしれませんね。
■参加者質疑応答
トークセッションを終え、参加者からの質疑応答の時間に移ります。
参加者からの質問
住民参加の意識づくりや、企業への協力依頼の秘訣を教えてください。
澤登さん
その辺りは片山さんの方が良いかも…片山さん、どうですか?(笑)
片山さん
(笑)うーん、企業の強みを考え続けることが大事かもしれません。澤登さんの頭の中には、常にその考えがある気がしますね。たまたま包括にやってきた福祉用具の業者さんを見て、「デイサービスやってるよね」「運動系の職員がいるな」と連想することが協賛を募るには大事なんでしょうね。立ち上げの時は、前面に出ないとか遠慮もあったのでしょうけど、次第に志を同じくするコアメンバーが遠慮せずに話を共有できるようになってきます。小さいところから始めれば良いのではないでしょうか。むしろ小さなところから始めると、良い循環が生まれやすいと思います。澤登さんもよくおっしゃっていますが、まずは自分が楽しむことが大事です。楽しくなってくると、「この楽しい気持ちを自分が独り占めしていて良いのか?」という気持ちが出てきて、「もっと共有したい」と思うようになります。
澤登さん
まちづくりっていうと、「自分が誰かのために何かしてあげよう」って考えがちですよね。でも、それよりもまずは自分が楽しむことが大事です。そこで楽しい気持ちが生まれると、人は必ず他者に目が行きます。「自分は楽しいけど、自分だけで良いのかな?」「この楽しい気持ちを共有したいし、自分も役に立ちたい」と思うようになるんですよ。気持ちの変化に気づいて、良きタイミングでポンと背中を押してあげると飛んでいきます。タイミング?伊達に13年やっていませんからね(笑)
金八先生っぽいことを一つ。「人のため」と書いて、「いつわり」と読みます。人のためから始めるのではなくて、まずは自己実現を目指しましょう。そこから少しずつ人のためになっていくのが、まちづくりと主体的に関わるステップで重要と考えています。
参加者からの質問みま〜もの立ち上げ時の座組みのプロセスやコツ、のれん分けへのアドバイスなどはしていますか。
澤登さん
最初は、綺麗事ではうまくいきません。みま〜もって、誰も知らないところからスタートしていますから。その状態なのに、企業に魅力を知ってもらわなくてはいけない。そう考えた時に、まず私のバックボーンにあるのは病院。もう一つのバックは、地域包括支援センターという公的なものです。名刺交換するとき、毎回どっちを渡せば良いか考えてました(笑)この会社なら病院だなとか、今度は地域包括支援センターだなとか使い分けて。行政とのつながりが強くなりますよとか、アピールもしました。最初はそんな感じでしたね。今はみま〜もがどういった組織なのかわかっていただけているので、企業と正面切って話すことができているかと思います。
のれん分け…片山さんどう思います?
片山さん
みま〜もの特徴は協賛事業所のネットワークであり、みま〜もである条件はそれが唯一と言っても良いと思っています。協賛の仕組みだけは作ってください、地域課題は人それぞれだろうからそれぞれのやり方をしていいですよ、とは口酸っぱく伝えていますね。立ち上げの時に地域の課題をしっかり見つけて、コアメンバーで共有して、あとは自由に。のれん分けではあまり具体的なアドバイスはしませんが、心から応援しているよという姿勢は大事にしています。
澤登さん
最初、綺麗事ではうまくいかないと話しました。でも、のれん分けしたみま〜もは皆さんがみま〜もがどういうものかを知った上で活動できるのが大きいですよね。
参加者からの質問
社会的処方(地域のつながりを処方することで、問題を解決すること)の事例として紹介されることがありますが、病院からのアセスメント(客観的な評価、査定)を受けてみま〜もの各種取り組みに反映されている事例はありますか。あれば、その様子も教えてください。
澤登さん
医療法人が母体の知己包括ケアセンターは、残念ながら年々減少しています。でも、みま〜もがあることで「みま〜もでこの病院を知ったから来た」とか、「MSW(医療ソーシャルワーカー)から聞いてみま〜もに来た」といった、地域連携の形ができつつあるのです。社会的処方とおっしゃいましたが、これから徐々に進んでいくのかなと考えています。
参加者からの質問
高齢者を見守るという目的をお持ちのみま〜もですが、若い世代へのアプローチはどのように行なっているのでしょうか。
澤登さん
牧田総合病院とみま〜もで連携して、3年前に「おおもり語らいの駅」という全世代対応の居場所を作りました。病院で開催するのですが、看護師にコーヒーを淹れてもらって、その場で健康相談ができるような内容です。看護師と気軽に話せる場だったのでさまざまな世代がやってきて、自然とつながりが生まれました。ある日から、やってきた若いママさんたちがみま〜もに参加している高齢者のことを「お母さん、お母さん」と呼び始めたんです。みま〜もサポーターの方たちが、地域のお母さんのような身近な存在になれたということなのでしょう。3年間で約2万人参加していただきましたが、現在はコロナの影響で中止しています。それでも、その時のつながりを生かして直接みま〜もにやってきてくれる人も現れていて。高齢者は高齢者、若者は若者と分けるのではなくて、他世代が混ざり合う場所を作りたいと思うし、それが大事なのかなと思っています。
参加者からの質問
病院が作ったコミュニティカフェということで、ドクターとの関係性が気になります。ドクターと患者さんたちの関係性やそれぞれの評価で変化がありましたら、教えてください。
澤登さん
実は、ドクターから「みま〜もってすげぇな」という声をたくさんいただいています。というのも、たとえば病院から「健康講座やりますよ〜」とチラシを作って呼びかけても、集まるのはせいぜい10〜20名くらい。でも、みま〜もが呼びかけると100人以上集まることもあります。そして、みま〜ものセミナーが終わった後は担当した医師の外来がすごく混むんです(笑)地域の方がドクターを身近に感じられた、ということなのでしょう。でも、そうした取り組みができるのも病院の理解があってこそ。一番の理解者は、病院の理事長(脳外科ドクター)なのかもしれませんね。
澤登さんは本当に周りをよく見ていて、常にアンテナを張っている方なのだと強く感じました。
やりたいことを澤登さんに話して、みま〜もで実現してみたくなりますね。
■旅を終えて
毎度、とても満ち足りた気持ちになれるコミュニティカフェをめぐる旅。
今回も、たくさんの素晴らしいお話を伺うことができました。
澤登さんと片山さんの軽快なやりとりは熟練の漫才コンビのようで、お互いの足りない部分を補い合っているようにも見えた気がします。
さあ、旅はまだまだ続きますよ!
次の旅では、どんなお話が聞けるのでしょうか。